「天気の子」の解説(※ネタバレあり)
考察前に、簡単に「天気の子」のあらすじと解説をしていきます。
ここからはネタバレ内容が記載されておりますので、まだ「天気の子」を視聴しされていない方やネタバレNGな方はご注意ください。
※先に申し上げますと、「君の名は。」と同じ世界のお話です。そして、なぜ今作と前作を同じ世界の話にしたのかについては、後ほど考察でじっくり説明していきます。
東京は、二か月以上、雨が降り続く異常気象に見舞われていました。そんな中、一人の家出少年が東京にやってきます。彼は16歳の高校生、帆高です。
帆高は、仕事を探してネカフェ生活をしていますが、16歳の高校生ではなかなか仕事が見つかりませんし、場合によっては警察に補導される状態です。そんな最中、通い続けたマクドナルドで、「100%晴れ女」である不思議な少女:陽菜と出会います。陽菜はマクドナルドでアルバイトをしていました。
しかし、陽菜は、とある事情でバイトをクビになってしまいます。弟と二人で生活していた陽菜は家計に苦しんでいたことから、帆高の提案で、「 100%晴れ女 」の能力を活かした「お天気ビジネス」をすることに。
晴天にして欲しいと依頼があれば、晴れ女パワーで晴れに変えるビジネスです。どんな悪天候でも晴天に変えてしまう「 100%晴れ女 」の 評判は口コミで広がっていき、瞬く間にSNSを通じて知れ渡ることとなりました。
しかし、陽菜は身体の負担を感じており、お天気ビジネスは中断することとなりました。それもそのはず、天候を左右させるということはかなりの代償が伴い、能力を使いすぎると地上から存在が消えてしまうのです…これが天気の巫女の悲しい宿命なのでした。
話は進み、人柱の宿命を知った陽菜は、夏なのに雪が降り始める東京の異常気象を元に戻すために「人柱」となる道を選びます。陽菜と一緒に過ごしたい、「人柱」を阻止しようとする帆高の物語です。
「代償」をテーマとした場合の考察
今作のテーマは「代償」と「選択」であるような気がしました。
東京の悪天候を元の正常な天気に戻すためには、天気の巫女として「人柱」が必要でした。祈ることで、雨を晴天に変える「天気の巫女」の役割を担う陽菜は、人々の願いに応えて「晴れ」天候を生み出します。
ところが、その天気の巫女の能力ゆえに、異常な悪候を正常にもどす「代償」として自身が「人柱」として消える選択をとります。
世界は平常な天候にもどり、いつもの日常が戻ってきました。しかし、陽菜の姿はありません。帆高は、陽菜を取り戻すべく、「人柱」の奪還に挑みます。そして陽菜を取り戻し、世界は再び「異常天候」へと戻るのです。
帆高と陽菜が、雨が降り続ける悪天候な世界を選択したことで、東京は3年間雨が降り続ける世界となり、今でも毎日雨が降り続けています。
この世界を選択することで、陽菜が人柱から解放されたのです。
さて、ここから考察ですが、
今回の「天気の子」は東京が舞台であり、「君の名は。」の主人公 である瀧くん と三葉ちゃんが登場します。ここで、「天気の子」の世界が「君の名は。」の世界とリンクしており、同一世界であることがわかります。
劇中では、大人になった瀧くんと、百貨店のアクセサリーショップで働いている三葉ちゃんの様子が描写されているのみで、「君の名は。」のラストシーン、二人が出会っているのか、まだ出会っていないのかはわかりません。
「君の名は。」のラストシーンでは、お互いが別々の電車車両に乗車しており、窓越しにお互いの存在を確認し合います。そして二人が出会っていく訳ですが…
雨が降り続く東京は冠水しており、電車が稼働していない世界です。人々は移動手段として、ボートを利用していました。
となると、「君の名は。」の瀧と三葉が出会うきっかけになったはずの電車も動いていないことになるのです。二人は出会わない世界に変貌された可能性もあります。
新海誠監督の狙いと作品に対する思いとは。
君の名は。と同一の世界にしたのは、前作と同じ世界である必要性があったからではないかと推測しております。
前作の「君の名は。」では、瀧が三葉を救うために、糸守町の住民を守ります。しかし、今作では、帆高が陽菜を救うために、悪天候が続く異常世界を選択します。
今作と前作では、かなり対照的な作品となっており、ここに新海誠監督のメッセージが込められていると思います。
前作では、三葉も住民も救い、何一つ代償が発生しないご都合主義な展開になってしまった話を、今作で敢えて理不尽な世界に戻すことで、都合良くいかない厳しさを吹き込ませていました。
今作で、帆高と陽菜が再会することができた「代償」として、前作の瀧と三葉が再会する「きっかけ」を損失させたのではないでしょうか。
どちらか一方が再会する代わりに、どちらか一方が再会できない「代償」や「理不尽」な展開、「君の名は。」を意識して次のステップに進もうとした新海誠監督の強いメッセージのような気がします。
監督自ら、今作は賛否両論が発生すると発言されていました。それは、「君の名は。」と真逆の展開で話を作り上げ、さらに「君の名は。」という作品を今作のための代償として「人柱」にしたために、「君の名は。」支持者が受け入れない展開を予想したからでしょう。
「君の名は。の新海誠監督」で終わらないよう、過去の作品に束縛されない、新しい展開へ羽ばたくための再構築が今作であったように思います。
「君の名は。」が空前の大ヒットとなってしまったので、今後の作品も「君の名は。」と比較されてしまいます。何としても前作との決別を図り、新境地を目指すためにも、監督ご自身で過去作品を切り離す必要があったのではないでしょうか。
これこそ新海誠監督の狙いであり、「君の名は。」だけでは終わらない、さらに進化した作品を今後も目指すという強い想いが込められているような気がします。