双方の思惑が乱れ、米朝合意に至らず
期待されていた第二回米朝首脳会は非核化と経済制裁の解除の観点に溝が発生してしまい、両首脳は非核化に関して合意に達せず、文書の署名は見送られました。
拡大会合ではお互いが称え合い、友好的な関係を世界にアピールする形でありましたが、結果としては合意には至りませんでした。
今回の非核化に向けた首脳会談はどこまで折り合えるかが焦点でしたが、当初は寧辺の核施設の視察と廃棄を条件に迫ると思いきや、 トランプ大統領側は核施設リストの申告と寧辺の核施設以外を廃棄を要求しました。
一方で金正恩委員長側は完全な制裁解除を求めてきており、米国はこの完全な制裁解除に合意できないと判断しました。北朝鮮は経済制裁により食糧危機に陥っており食糧が140万トン不足している状態であるため、北朝鮮は早い緩和を求めていました。
アメリカ側が求めた寧辺の核施設以外の核施設の廃棄に関して、金正恩委員長にとっては個人的な限界もあったのではないかという予想もあります。つまり軍部の影響で、そこまでの譲歩が発揮できないのではないかと推測されるのです。
米朝合意に至らなったことは、米朝としては「決裂」とまでは言わなかったとしても、世界は米朝の交渉が失敗に終わったと判断することになるでしょう。
トランプ大統領としては、米国に都合の悪い条件を持ち帰らずに強い姿勢を維持し、安易な妥協を示さないことで米国内からの批判を回避したのではないかという見方があります。米国内でトランプ大統領の立場が悪化しているのです。
米朝それぞれの思惑とは
「非核化は急ぐ必要はない」と何度もトランプ大統領は発言し融和ムードを残したものの、大きな成果を期待すると矛盾して発言をしていたことから、トランプ大統領の心境としてはかなり苦しい状況でした。
仮に、何も成果が得られなかった時のために国内の期待値を下げておきたいが故の「急ぐ必要はない」発言であり、一方で何かしらの大きなサプライズも求めていたはずです。
その相反する回答にトランプ大統領が陥ったのは、米国内で元弁護士のマイケル・コーエン被告がロシア疑惑に関して暴露している点です。
コーエン被告は刑期を軽減する司法取引に応じることになり、ロシア疑惑における証言を示し、選挙資金法違反の小切手まで証拠として出てきた中、トランプ大統領も動揺を隠せません。
提示された内容は、2016年、当時の大統領立候補者でトランプ大統領のライバルでもあったクリントン氏のメール問題について、ロシアが暴露する点を事前に知っていたことや、口止め料として支払われていた小切手などです。
国内からの圧力がかかっている状態で迎えることになった今回の米朝首脳会談、何とか大きな成果を得たかったところでしょうが、北朝鮮側が提示してきた「完全な制裁解除」に合意してしまうと、「妥協」と判断され、さらに立場が危うくなることから合意しなかったものと考えられます。
よって、今回の首脳会談で米国側にとって何も旨味が得られない交渉になってしまったと判断するや否や、トランプ大統領は席を外す選択をしました。これは、先ほどの米国事情が背景にあります。
今回は、トランプ大統領が得意としてきた「トップダウン外交」のリスクが表沙汰になった形です。当面は、合意できなかったが北朝鮮はミサイル発射や核実験をしていないことを成果として支持者にアピールするのではないかと推測されています。
北朝鮮側の金正恩委員長は、軍事強化による独裁国家政策よりも、経済発展に力を注いでいきたい方針ですので、今まで米国と培ってきた関係を失いたくはありません。
何度も中国に訪問し世界に融和ムードを示してきた点からも、後戻りし核実験やミサイル発射など軍事独裁国家に戻る可能性は低いと考えます。今後は中国を頼りに米朝関係について再度試行錯誤作戦を練る可能性が高いです。
次回の会談は約束しなかったものの、いつでも会談に応じるとトランプ大統領は前向きな姿勢を示していました。また、核実験・ミサイル発射はしないことを約束したことからも、北朝鮮の動きとして、この辺が注目ポイントになってくると思います。
双方、米朝首脳会談を成功させないといけない理由
今回は「合意せず」で進捗が得られずに終わってしまった米朝首脳会談ですが、米国内からも批判され、国外で成果を得ないといけないトランプ大統領としては、今後も米朝関係における協議を続けるものと考えられます。
選挙資金法違反が明確となってしまった以上、トランプ大統領は2020年の大統領選挙に当選しなければ、前大統領という立場では起訴されてしまうのです。
議会民主党からしたらチャンスであり、トランプ大統領からしてみれば上院を取られてしまうと弾劾裁判を受ける可能性もあるため、2020年は自分の立場を守るための選挙となってしまったのです。
命運を担っているのは金正恩委員長でトランプ大統領を譲歩せざるを得ない状況とされていましたが、トランプ大統領は威信をかけて、今回の米朝首脳会談に敢えて「合意せず」で対応したと考えます。
アメリカが会談をリードしていて、北朝鮮に妥協することなくペースに併せないという姿勢が、ある意味トランプ大統領らしいと言えます。
今回の「合意に至らず」は、国民に妥協しなかった姿勢を見せるアピールであり、期待値を下げるための「交渉の戦略」であり、後にサプライズのためのステップなのではないでしょうか。今後も米朝首脳会談を開催する可能性は大いにあり得ます。
焦っているのはトランプ大統領だけでなく金正恩委員長も同じです。トランプ大統領が今回のロシア疑惑や不倫問題などで大統領の立場を下ろされる、もしくは持ち堪えたとしても次回の再選を達成しなければ、今後、米朝関係を友好的に捉える大統領が現れる保証はありません。
物分かりが良いトランプ大統領と交渉した方がメリットが大きく、他の大統領では様々な要求を突きつけられる可能性があることから、トランプ大統領が米国のトップである間にまとめたいと考えているのではないでしょうか。
何としてもトランプ政権の時に、完全な制裁解除への合意と、安全保障の約束にこぎつけて北朝鮮を経済発展させたい意気込みのはずです。よって、今後の米朝首脳会談には乗り気になるでしょう。
最終的にトランプ大統領は、「朝鮮戦争終戦宣言」を執り行うことでノーベル平和賞を狙い、世界に対して米朝関係の成果をアピールして支持者を増やすことが、次回大統領選挙に繋がると考えているのではないでしょうか。
ロシア疑惑絡みによる弾劾裁判や、起訴される可能性が高まった以上、トランプ大統領としても、絶対に次回の大統領選挙に負ける訳にはいきませんし、そのためにも米朝首脳会談での成果が大きな鍵になるのです。